繭から糸が作られるプロセス

風呂敷の生地に採用されることが多い絹は、蛾の一種である
蚕蛾の幼虫が作り出した繭を採取したものが原材料です。

幼虫が羽化するまでの間、外敵から身を守るために作られる繭は、
繊維として用いることで優れた生地となります。

繭から取り出した生糸の断面は三角形になっているのが特徴で、
外周にはセリシンというたんぱく質が覆っており、
石鹸やアルカリを使用して洗浄した後に作られた繊維は
練糸になります。

絹素材の美しさ

その直径は平均して約10ミクロンですが、その中には
0.1ミクロンから1ミクロン程度の細かい糸で構成されており、
繊細な風合いを作り出しています。

絹はセリシンをどれだけ洗浄するかによって仕上がりを左右し、
それは風呂敷の使い勝手にも影響します。

多くを除去した場合は固く張りを作ることができますが、
染色などの加工がしにくくなる一方で、残留量が多すぎた場合には
特有のやわらかな風合いが失われてしまいます。

このように絹の仕上がりはセリシンの量によって
決定づけられることから、特に風呂敷のような用途で
使用する場合には、独特の美しい風合いと心地よい手触りを
残すようにセリシンの繊細な調整が必要になりますが、
このような時こそ職人の豊富な経験や技能が試される瞬間です。

有効成分を残した経緯

かつて練糸を作る際に発生していたたんぱく質のセリシンは、
除去するほど加工がしやすくなることから必要がないものとされ
排水されていました。

しかし、それらの作業を担当していた職人が、
ある日手が綺麗になっていることに気付きました。

そこで専門機関にセリシンの調査を依頼したところ、
人間の皮膚と同じたんぱく質で作られていることや、
人間の皮膚の成分に近いだけではなく、化学繊維特有の
弊害が無いことが明らかとなりました。

研究の結果

さらに吸湿性や放湿性を持つことも分かり、絹を作る際に
排水されるはずだったセリシンを採取し、粉末にして
加工食品にしたり、下着や寝間着などに使用されました。

一方、風呂敷に利用する場合には、セリシンによってもたらされた
独特の風合いが美しいだけではなく、手触りの心地よさがあるのは
前述のように人間の皮膚と同じたんぱく質であることや、
皮膚の成分に近いことが大きく寄与しています。

風呂敷に吸湿性や放湿性を持たせることで、包んだ品物は
常に調湿された状態となり、ベストコンディションで
大切な方へ贈るために運搬することができるのもメリットです。

絹の風呂敷には先人たちの知恵に最先端の化学が融合し、
優れた美しさと機能性を兼ね備えています。